真心ブラザーズ、2018年9月5日リリースのニュー・アルバム『INNER VOICE』。「もうバイオリズムとしか言いようがない」「この感じは95年の『KING OF ROCK』以来」と本人たちが言うほどクリエイティビティが冴えわたる1年前のアルバム『FLOW ON THE CLOUD』時の勢いがそのまま持続しているようで、前作と同じモノラル録音・ベース岡部晴彦、ドラム伊藤大地のLow Down Roulettesとスタジオに入っていきなり一発録り(奥野真哉のキーボードが入っている曲などはその部分のみあとから追加)、という、作り手の生々しさがそのまま出る手法で作られた全11曲が並んでいる。
なお、初回限定盤には2018年6月8日日本青年館から4曲のライブ映像と、この『INNER VOICE』の全曲をYO-KING&桜井秀俊のふたりで弾き語りでぶっつけセッションした映像が付き、通常盤の方にボーナス・トラックとして「みみ」「ズル」の2曲が入るという、ちょっと特殊な仕様にもなっている。このクオリティ、この勢い、このバイタリティはどんなふうに生まれているのかについて、以下、ふたりに訊いた。
「苦労とか努力はしないぞ」っていう覚悟を決めちゃったんだ、音楽に関して(YO-KING)
──そもそもこのキャリアで年に1枚ペースでアルバムを作る人、いないような気が。
桜井2017年の終わりぐらいに「2018年どうする?」っていうミーティングがあって。その時にYO-KINGさんが「新譜を作る」「えーっ!? 元気!」みたいな(笑)。それでレコーディングの計画を練って、4月5月6月に録って……前作のセッションよりも短めだった、要領がわかったので。やっぱり、新譜を作ろうと言ったYO-KINGさんの勢いがすごくて。だから前作・今作の二作に関しては、僕は受けに回っている感じですね、歌書きとしては。こういうふうにYO-KINGさんは書いてくるだろうから、それならこういう技を出す、みたいな感じで、自分がどういう曲を作るかを考えて、1曲1曲を作っていって。
YO-KINGもう毎年1枚ずっと作り続けるのが、なんか素敵なことなんじゃないかなと、その時点では思った。で、曲を作ってアルバムっていう形にすることはね、趣味だし、簡単なことだから。俺にとってはね。曲ができてレコーディングするっていうとこまでは、ほんとに簡単にできるから、それは遊びとしてやりたいなっていう。ただ、それはみんなを巻き込む時点で商売にもなるから、「どうかな?」って振ってみたら、「おもしろそう、やりましょう」ってことになったので。
──曲はどんどんできた?
YO-KING曲はいくらでもできる。まあ、どっかでもう覚悟が決まっちゃってて。変化とか新しい基軸とかなしでも曲を作り続ける、っていう覚悟があるかどうかだと思うんだよ。だから「苦労とか努力はしないぞ」っていう覚悟を決めちゃったんだ、音楽に関して。そしたらもういくらでも曲はできる。
──それは最近?
YO-KINGまあ前から薄々あったけどね、そこまでの開き直りはなかったかもしれない。
桜井学生時代からそうですよ。でも、学生時代は無意識にというか……たとえば直属の先輩のカステラがさ、思いついたことをなんでも言っちゃうような感じで、パッと曲を作ってすぐライブでやる手軽さが、ロックとしてかっこいいと思ってたんで。それを別のやりかたで、みたいなのでやってきたけど、大人になってからそれを確信と覚悟を持ってやるようになってきたっていう。その違いはあるけど、やってることは変わんないと思う。
だんだん居合抜き方面に、セッションが行ってますね(桜井)
──前作はLow Down Roulettesと4人でスタジオに入ったその日にいきなり録っちゃう、という作り方だったそうですが、今作も?
桜井いや、前回は、前もって弾き語りのデモを聴かせてたから、まだ親切だった気がする。今回はそれもなしで、歌詞を渡して、それにコード進行が書いてあって、「じゃあやってみるから、適当に乗っかってきてね」みたいな。それがいい感じだったら、「じゃあ回してください、頭からやろう」みたいな。前回気づいたのは、そっちの方がいいテイクが録れるってこと。2回目、同じことをやろうとすると、人間だから「ちゃんとやろう」みたいな気持ちが入っちゃって、ちゃんとはできてるんだけど前の方が魅力はあった、みたいな結果になることが多々あったので。その場でスパークした方がいいし、充分にそれができる人たちだから、リズム隊のふたりは。エンジニアの西川くんも、急に「今の、録った?」って言われることを想定しながら、入念に準備をして。だんだん居合抜き方面に、セッションが行ってますね。
YO-KINGとある筋では「テイク0の男」って言われてるからね(笑)。テイク1ですらないっていう。でもほんと、ミュージシャンてさ、アドリブ効くからね。たぶんミュージシャンじゃない人が思う以上に。ミュージシャンてもっと自由でもっとアドリブが効く、そこにおもしろさがあるって発見しちゃってるから、その楽しさから抜け出すのはまだまだ時間がかかるかもしんない。
──今はバンドで録っても、あとからいくらでも直せるじゃないですか。それだとおもしろくない?
YO-KINGなんか、定義が変わってきてる気がするよね。昔で言うミュージシャンって、今、DJになっちゃってるから。アレンジをピシッと決めてるような──。
桜井素材で音楽を作るってことね。
YO-KINGうん。作曲家兼アレンジャーっていうのは、DJとかトラック・メーカーの人がやることになっちゃってるっていうか。だからミュージシャンて実は今、けっこう土俵際に追い込まれてると思うの。プレイヤーとしてのミュージシャンね。だから逆に、プレイヤーがやるのは、このアルバムみたいなことしかないと思うけどね。楽器をやるプレイヤーのミュージシャンが、昔で言うミュージシャン、今で言うDJ的な手法をやっちゃうのが、いちばん中途半端でつまんないんじゃないかなと思う。 まあ、自分で言うのもなんだけどさ、俺も含めて、才能あるミュージシャンの現場処理能力をすごい観たいんだよ。その場でなんとかするところを観たいし、なんとかできないならできないなりを観たいっていうか。「あ、できないんだ、こういう人でも」っていう。そういうのもエンタメになるわけじゃない? そういうまぎれもない現実というか、リアルなセッションというか。それができるミュージシャンとできないミュージシャンがいて、できるけどそれは見せない方がいいミュージシャンと、見せてもいいミュージシャンもいるとしたら、俺らは見せてもいいミュージシャンだからさ。
フォークを通ったことが、武器になってるのかもしれないね、今でも(YO-KING)
──でもさすがに、歌詞とメロディは前もって書いてくるんですよね? あたりまえか。
桜井うん。……(YO-KINGを見て)……え? 違う? その場なの?
YO-KINGいや、その場っちゅうか、なんちゅうかね……大体は決まってるけど、迷う部分とか、2番とか3番とかをどうしようかなと思いながらスタジオに入って、1番を歌って……だから、歌詞って意味ではストックあるわけですよ。メロディが付いていない文字がたくさんあって、「あ、じゃあここをこの曲の2番に持ってきたらどんなメロディになるのかな」っていうのを、アドリブで付ける。で、辻褄合わせんのは俺、うまいから。たとえばカラオケで、知らない曲でも歌詞が出れば歌えるじゃん?
──そうなんですか?
YO-KING歌えんのよ、だいたいの歌手は。次のコード進行とかが読めるから……変なコード進行だったら無理だけど、王道のコード進行なら歌えると思う、作曲できる人は。たとえば“STAND BY ME”の循環コードとか、予測できるじゃない、次のコードが。もしくは、一拍目のコードを聴いて、一裏とか二頭とかでメロを載せれば、外さないメロディはできるんだよね。ブルース系とかはだいたいそれでやってる。だからメロディが平坦なの。でもそれは、平坦な分、歌詞が強くないと、エンタテインメントとして成り立たないから。 だからこのアルバムの曲も、Aメロとかはけっこう平坦ですよ。そういう作り方をしてるのは、曲作りする人が聴いたら一発でわかると思う。サビだけはちゃんと決まってて、Aメロに関しては小節数とコード進行だけ決めて、あとはもう歌詞をどんどんぶちこんでんだな、っていう。
桜井YO-KINGさんは、ベースにフォークがあるから。字余り上等みたいな。学生時代、YO-KING先輩と同じ学年のパンク・バンドのボーカルの人が「倉持の字余り、信じらんねえ!」って。
YO-KINGはははは。フォークを通ったことが、武器になってるのかもしれないね、今でも。
桜井ほかにやってる人いないしね、今。
YO-KINGラララでメロディを作って歌詞を載せてるわけじゃないからさ。歌詞とメロディを同時に作る人は、どうしても字余りとか字足らずになっちゃうんだよね。要するに俺は、推敲する粘りがないんだよね。粘って整える力が極端にない。だからその場の瞬発力に賭ける。「スピード」なんてそうじゃん。体はハードコアとかオルタナ系だけど、メロディと言葉の構造としてはフォークだから。
──じゃあフォークとヒップホップって近い?
YO-KING近いですよ。ボブ・ディランとかそう言ってる。あと、先人の何かを拝借して表現するっていう意味では、たとえばウディ・ガスリーのコード進行とメロを拝借して言葉を変えて作っちゃうとかさ。それがフォークっていうカルチャーだから、後々「あれパクってる」って言われても「いや、そういうもんだから」というところで、噛み合わないんだよね。それってヒップホップもまったく一緒でさ。
──あと今作、おふたりとも歌詞が、重た目ですばらしい気が。
桜井ああ、ありがとうございます。
──モノラル一発でシンプルに録ってるんだけど、歌っていることは人生全般に及ぶような、深いものが多いなあと。
桜井まあ、それは、しかたないんじゃないですか(笑)。
YO-KING気持ちとしては逆に行きたいんだけどね。もうちょっと軽やかで行きたいんだけど、出ちゃう部分は出ちゃいますよね。
桜井明るい歌より暗い歌の方が、書いてておもしろいっつうのはある。それが年齢的なものなのか、時期的なブームなのかはわかんないけど。自分のうまくいかないところとか、「なんだよ!」って思ってるところが、表現としておもしろいような気はしてる。
──なるほどなるほど。では、こんなところでまとめさせていただきますね。
YO-KINGああ、よろしくお願いします。うまくまとめてね。何かすごいいいこと思いついたら、俺が言った体で書いといて。
桜井はははは!